広島藩主として浅野氏が広島城に入城して400年を迎えた今年は、広島市を中心に県内で様々な記念行事が目白押しだ。干拓で城下町を拡大するなど広島の発展の礎を築いた浅野氏の藩政や、これまで語られることが少なかった江戸期の文化・暮らしを見つめ直す動きが一斉に始まる。
市民の憩いの地となっている広島城。日本三大平城の一つとされるが、江戸期の「殿様」がだれか、ということを正しく知る県民や市民は実は多くはなかったいう。「三本の矢」の故事から「広島の武将は毛利元就や孫の輝元」という印象が強烈で、250年にわたり藩主として広島発展の礎を築いた浅野氏への認識は乏しいままだった。
城の一帯は明治期も一時大本営が置かれ東京以外では唯一の帝国議会が開かれるなど国や軍の重要拠点だった。しかし天守も城下町の町並み、そして記憶までもを原爆が跡形もなく吹き飛ばした。1958年に天守が再建されたが現在に至るまで存在感は薄く、周辺の施設やバス停にもその名を冠したものはほとんどない。観光施設としての認知度も低かった。
このため、入城400年の節目を好機として浅野時代を中心に広島の歴史・文化の再発見につなげようと広島商工会議所や県・市、そして江戸期の美術工芸品を多数受け継いできた上田流和風堂(広島市)などが立ち上げたのが記念事業推進会議。記念ロゴを公募したほか、市は年内に40以上のイベントを展開する。地元史や現在とのつながりを広く共有してもらうことが大きな目的だ。
最大の催しと位置づけるのが入城日(旧暦8月8日)にあたる9月15日に予定する「入城行列」。初代藩主の浅野長晟(ながあきら)や家臣、武士、町人に扮(ふん)した一行が広島市中心街を経て広島城まで練り歩き、400年前の入城の光景を再現する。観光面への効果も期待している。
「子どもたちは戦前の広島の姿をほとんどしらない。学校でも教えることはなかった」(広島県文化芸術課)。こうした若い世代に対して歴史をわかりやすく伝え地域への愛着を強めてもらおうとする取り組みもある。小学生5000人を招待して9月に女子高校生が江戸期の広島にタイムスリップする設定のミュージカルを開催する。
9~10月には集中イベント期間として県立美術館で浅野家の名宝を集めた展覧会を開くほか、地元史と文化の再発見をうながす講演会や展示会が各地で展開される。
茶道上田宗箇流の上田流和風堂が3月末から開く「吉川広家・上田宗箇 豊臣大名の茶の世界展」では広島城内にあった屋敷を再現した家屋内を巡りながら茶器や呈茶を楽しめる。江戸期の空気を味わえる「体験型ミュージアム」となる。
上田宗冏(そうけい)家元は「戦後は焼け野原からの復興に全力を傾け、過去を振り返る余裕はなかった。400年の節目を迎えようやく被爆前の歴史に目を向けられる時代がやってきた」と感慨深く語る。多くの入城400年事業がまちの歴史への再認識につながることを期待している。
(広島支局長 北村順司)